加賀友禅作家、下村利明の友禅世界

加賀友禅創作の工程の中で気をつけていることや各工程の醍醐味をお伝えします

 なるほど納得☆加賀友禅作家の仕事あれこれ

下村友禅のつくりかた

  友禅着物はたくさんの工程を得てできあがります。
  そしてその工程ごとに向き合う心持ちや醍醐味、注意するポイントが変わります。
  ここでは友禅作家としてまた職人としての創作のポイントや楽しさ、苦労話などをお伝えします。

打ち合わせ

お客様との打ち合わせ

 依頼して下さるお客様と、色や柄やサイズを話し合います。
お召しになる方の雰囲気や、着てくださるシーンを把握しながら話を進めます。
  また、納期や代金についての打ち合わせも大切です。

一度でお客様の意思や希望を受け入れるのは難しく、回数を重ねることも大切です。が、最初のお話が仕上がりにとても反映されると思います。

図  案

図案

 多くの作品を見て染めを想定しますが、図案発想の種はやはり経験ということでしょう。
 映画を観ながら、旅行先で、ウィンドウショッピングをしながら…普段の見聞の中に発想のヒントは散りばめられています。

頭の中にあったイメージが図案によって具体化されることでひとまずホッとします。
丁度スタートラインに立ったような心もちになります。

下  絵

下絵

 露草の汁を和紙に染み込ませたものを使います。
 染料店などから購入しますが、最近は露草自体が減少しているようで値段も高騰しています。友禅の道具の中でも、近年特に入手が難しく、保管や使用時には気を遣います。

思うに下絵は絹に最初の気持ちを込める作業です。
時間をかけて丁寧に行います。

糸目糊置き

糸目糊置き

 月に一回か二回、もち粉とぬか粉などで糊作りをします。
 もち粉は粘り気があり、ぬか粉は硬くてエッジが効きます。湿度と気温によって、この二つの割合を変えて調整しながら糊を作ります。

以降の仕事に大変重要な作業ですので、一つのターニングポイントとして大切に仕上げます。

糸目地入れ

糸目地入れ

 布海苔という海草を乾燥させたものを購入し、温湯でどろどろにしたものを裏ごしして地入れ液を作ります。
 糊の太さや生地の種類によってその濃度や布への熱の加え方を調整し、彩色のしやすい地入れをするように心がけます。

丁寧に糊置きしていても、この地入れを怠ると彩色に大きく影響してしまいます。

彩  色

彩色

 どんな色も、横に来る色やその文様に応じては素晴らしい配色となりますが、その逆もあります。全体をイメージした彩色や染料の調合こそ、作家としても職人としてもとても重要な仕事です。
 粉上の染料7種類ほどをお湯で溶かして使用します。それらを組み合わせて、一反の着物に最低4,50色は調合します。

彩色が終わったら、絵柄に地染めの染め色が入らないよう約30分ほど下蒸しを行い色を定着させます。

中 埋 め

中埋め

 筒の中に入れた糊をしぼりだして柄の部分を伏せてから、おがくずをさっとかけた時の何とも言えないいい気分。これはぜひとも体験していただきたいことです。

ここでの作業も、地染めの良し悪しに関わる大切な作業です。
丁寧な作業が要求されます。

地 入 れ

地入れ

 ここでは刷毛を使います。最近では化学繊維の刷毛も出ているようですが、私は職人さん手作りの鹿の毛の刷毛を使用しています。作業中によく毛が抜ける刷毛もあれば一年もつ刷毛もありますが、それは使ってみなければ分かりません。刷毛は高額なので大切に扱います。
 筆中心の座って行う作業から立って行う地入れに移り、舞台も変わって気持ちも完成へと向かいます。

さあ、地染めへの準備が全て整いました。
いよいよ最後の大仕事、地染めに入ります。

地 染 め

地染め

 右手に刷毛、左手に染料の入った器(バケツなど)を持って色ムラのないように素早く染めていきます。
 この時こそ集中力とスピードが要求されますので、もし電話が鳴ったりしても対応できない状況になります。

着物全体に命が吹き込まれる瞬間です。長い間、この染め上がりを楽しみに作業してきただけに、自分の感性が上手く出しきれているか、楽しみでもあり不安でもあります。

水  洗

水洗

 一反の反物は、蒸し終わって色が定着した後で約1時間半くらいを使って水洗することになります。
 その内の約30分間は中腰で冷たい水に手をつけていることになりますが、糊置きの糊や伏せ糊などを丁寧に落とすことが重要なので慎重さが必須です。
 気力が必要な作業です。

水流にたゆたう柄のあでやかな美しさはまた格別です。
父の代までは浅野川で水洗をしており、友禅流しと呼ばれる金沢の風物詩の一つでした。

乾  燥

乾燥

 ここまでで、やっと一連の楽しみや苦労に区切りがつきます。
同時に次の作品への切り替えも始まります。

湯のしをして布の幅を均一に整えたら、反物の出来上がりです。
その後、仮縫いを経てお客様にお見せします。

着物ライフ着物ライフ

落款 写真は落款と言って、いわばハンコのようなものです。手書き友禅作家それぞれが自分の落款を登録しています。彩色の際に作品への愛情と責任を込めて描き入れます。
  私のこの落款、陽明の陽は祖父の名前から、明は父の名前から取りました。地染め職人であった祖父と父の流れを受け継いで今の私の作風も生まれているという認識から作った落款です。